ご飯に湯をかけて食べる
お茶漬けは良いものです。お酒を飲んだ後などに好む人も多く、また、京都では、朝食としてお茶漬けが用いられることが多く、そのことが多様な漬け物の発展をもたらす一つの要因ともなっていったようです。お湯ではなく、お茶をかけることは、出汁よりも手軽に旨味を加えることができるお茶の普及とともに広まっていったと思われます。
お茶漬け
現行のようなお茶漬けがいつ頃から行われていたかは定かではありませんが、江戸最初期には、浅草に奈良茶を出す店が誕生していました。奈良茶は、煮だした茶で炊いたご飯にさらにお茶をかけたもので、煎った大豆を炊き込むものが本式とされます。1680年ごろ、江戸でもかなり早い段階で出来た飲食店として誕生していたようですので、そのころには奈良を中心として関西圏では、ご飯にお茶をかけることはポピュラーであったと思われます。その際に用いられたお茶は、煮だしたお茶(粉茶)で、後に主流になるお茶とは異なっていたようです。この、煮だした茶で炊いたご飯と似た色であるために、しょうゆを混ぜて炊いたご飯を「茶飯」と呼ぶとも考えられ、茶飯が一般的な名称であったことを伺わせます。
一方で、永谷園の永谷宗円さんが煎茶を発明したとも言われるように、江戸での煎茶の流通が盛んになるのはもう少し後であったと考えられます。江戸で茶漬けを専門とした店があったのも、お茶に対する珍しさも一つの理由として挙げられるかもしれません。山吹茶漬、海道茶漬などが名の知られた茶漬け屋としてありました。
湯桶(湯斗)
ご飯にお湯をかけて食べる食べ方の古いものとして、湯桶(湯斗)があります。湯桶とは、ご飯を炊いた釜の底に少し残しておいて火にかけ、少し焦げ目をつけたものに熱湯をかけたものです。お茶が伝えられる以前から日本で行われていたと考えられます。味は塩味ですが、出汁となるのは焦げた米であり、精進料理で、煎った玄米から出汁を取る方法と通じるものです。
出し汁ご飯
ご飯に、別に取った出し汁をかけて食べる料理も古くから存在しています。味付け調理をした魚をご飯にかけ、すまし汁をかけて食べる魚飯、芳飯といった食べ方が記録されています。また、茶道の表千家には、「うずみめし」という、豆腐の上にご飯を盛り汁、をかける食べ方が古くから行われています。
「お茶漬け」として、お茶ではなく出し汁を用いることは、ごく近年に行われるようになったと考えられます。
食器
日本には、茶碗や飯碗、また、碗の蓋を酒器として用いる風習がありました。食事をするための器と飲み物のための器が渾然となっていたことも、ご飯に汁(湯)をかけて食べることを生み出すもととなったと考えることができます。また、茶碗を左手に持ち箸を使って食事をすることも、お茶漬けを可能にする食べ方といえるでしょう。
辻留の辻嘉一氏は、お茶漬けの時には「カチカチ」と音のなる象牙の箸が好ましいとしています。
お茶漬けの種類
お茶漬は、ご飯の上に何を乗せるかによって、様々な種類のものを作ることができます。しかし、相性はあるようで、一般的なお茶漬けとして挙げることができるものがいくつかあります。参考として挙げた本の中から抜き出してみます。
お茶漬けに乗せる際には、出汁が出るものであるほうが相性が良いことが多いようです。湯桶の場合では焦がしたご飯自体が出汁のもととなる役割を果たしていましたが、お茶漬けの場合は、ご飯の上に乗せるものに、その役割が求められることが多くなります。最低限、塩気は必要なようです。
魚のお茶漬け
- 塩鮭・塩鱒
- 鯛
- 鮪
- たたみイワシ
- わかめ(魚の干物とともに用いる)
- ごり
- 鱧、穴子、鰻
- 車エビ(煮たもの)
- シジミ
海藻のお茶漬け
- のり(佃煮)
- 塩昆布
- わかめ
その他
- 漬け物
- 天ぷら(揚げ玉)
- 天ぷら(余るなどした天ぷらを、火にかけて炙ったもの)
- あられ
- 納豆
煎茶と番茶、ほうじ茶、出汁
ご飯にかけるお茶は、お茶漬けの実によって、また、好みによって使い分けられています。例えば、『魯山人味道』では、ご飯に対してお茶の割合が少ない場合は番茶、ご飯が少なくお茶が多い場合は煎茶が良いとしています。ただし、基本的には煎茶が多く用いられています。